作り手インタビュー Interview

作り手山川 冬樹 ∞ 長浜谷 晋

春になればいい、それだけです

山川 冬樹 ∞ 長浜谷 晋

長浜谷 晋さんはカメラマンで僕の近所に住んでいて、アートリンクうちのあかりに週2回位通所して写真を撮っているんですけど、友達みたいな感じでたまに送迎したりするんですが、普段、長浜谷さんに聞けなかった事をこの機会に伺ってレコードに録音しました。

この音声や長浜谷さんが撮った写真を山川冬樹さんに送りまして感じた事を自由に音で!という結構な無茶振りで「はだしのこころ」に出展していただいたわけなんですが…






ー 長浜谷さんの印象はどんな感じでしたか?


長浜谷さんが写っている写真の前で演奏する山川さん

山川冬樹(以下 山川)  

長浜谷さんとは一回お会いできたのですが、事前に送って頂いていた写真や圓井さんとの対話の録音から受けた印象と、ご本人にお会いして受けた印象はまったく同じでした。

今回の企画は「心の傷」が重要なテーマになっていますよね。そんな中で特に長浜谷さんのそのカラッとした人柄に惹かれました。自分の心の傷を隠すのでもなく、それを表現しようとするのでもなく、己の傷をただそこに在るものとして、静かに淡々と見つめている。カメラマンらしいし、リアリストですよね。


山川 

アートリンクうちのあかりにおじゃましてお会いした時にこの展示されてる白黒の作品もみたんですが、これ若い頃に撮られた写真ですよね?



圓井 

そうですね。


長浜谷晋さんが学生時代に撮った写真
(中央は本人)

山川

こっちは徐(ジョ)さんが撮った作品ですね。

 「光景の連なり」 徐津君

 「光景の連なり」 徐津君

山川

徐さんは、秋田公立美術大学3年生で(撮影当時)実は僕の教え子なんです。

聞くところによると、徐さんは長浜谷さんと同じ写真学校の後輩なんですか?
それすごくないすか!? 偶然?


圓井

そうですね、、

安藤

長浜谷さんの娘さんもね、同じ学校..


山川

あ、本当?!長浜谷さんの娘さんも徐さんも同じ学校出身で、今、僕は徐さんの先生になっている、なかなかこういう縁もないですよね..

長浜谷さんは、映画のスチールマンとしてプロの現場でバリバリやられてきた秋田出身の方ですよね。

長浜谷さんが映画の撮影で南極を訪れた時 (左下)

カラッとした命 カラッとした死


アートリンクうちのあかりで長浜谷さんの写真に目を通す山川さん

山川

安藤先生が運営されているアートリンクうちのあかりには、2、3回お邪魔したことがあるのですが、ある時、圓井さんが「長浜谷さんがうちのあかりにいらっしゃるから来ませんか?」と声をかけてくれて。そこで長浜谷さんが病に伏してこの世を去っていくご友人を撮った写真群を見せてくださったんですよ。

そこにはカラッとした命、カラッとした死、そして一人の人が一生を終えていく時の流れの重みが写し出されていて、深い感銘を受けました。

あの作品はまさにレンズを介した対話ですよね。

人が記憶を形として遺そうとする意味と無意味、さらには人生そのものの意味と無意味を問いかけてくる凄みを感じたというか…。

死へ向う友人を長浜谷さんが撮った写真 泣きながら撮ったそう

「The 67th Spring」



山川

今回の企画は感覚の対話ということで、アーティストによっては対話する相手に選択肢があったそうですが、僕は最初から「長浜谷さんでお願いします!」って言われていたので、長浜谷さん一択でした。

そういう事故に遭うみたいな出会いはいいですね。

事前に資料を送っていただいた時に、特に圓井さんとの会話の録音が面白くて思わず聞き入ってしまいました。最初は録音そのものを使うつもりはなかったんですけど、色々考えた結果、最終的にその録音を丸々使うことにしました。

圓井さんに送ったメールに確か「自分が表現しようとしてしまうのを極力避けました」と書いたと思うんですが、今回は自分が表現するのは違う、という気がすごくしたんですよね。

誰かと対話する時、僕は自分の想いや感情を表現する前にまず相手の声を聞きたい。

まだ長浜谷さんのことあまり知らないので、こちらから長浜谷さんに対して何か表現をするように投げかける前に、長浜谷さんの声を受け止めないとと思ったんですよね。

最初は色々作曲っぽいこともしてみたんですが、結局全部削ぎ落として、最終的に僕が何をやったかっていうと、いただいた録音にスプリングリバーブをかけただけ。

でもスプリングの共鳴現象を上手く調整することで、長浜谷さんと圓井さんの対話を音楽的なセッションに変換し、そこに3人目の対話者として関与していくような感覚でやってみました。

山川さんの音にじっと耳を傾ける長浜谷さん
「The 67th Spring」 /  山川冬樹


山川

英語の「Spring」という単語は「バネ」とも「春」とも訳せます。

今日の公演の冒頭で、MORI(3KW)さんのラップの中で「雪を踏む」っていう言葉が沢山出てきましたよね。

僕は秋田で冬を越すのは初めてなのですが、この秋田の冬の厳しさをみんなで共有し、一緒に春を待ち望む感覚というのは、この地に身を置くとすごくよくわかる。

それでこれから秋田に訪れる「春」を「spring=バネ」にかけて、スプリングリバーブを使ってみようと思ったんですよ。これはダジャレみたいな思いつきなのですが、長浜谷さんも春を待っているようなことを仰っていたのですよね?



圓井

長浜谷さんは66歳でカナリ身体が不自由なのに一人暮らしで、展望といったら大げさですが、何か今、目標ってあるんですかって?なんとなく聞いたら「ただ春になればいいな」って… それって展望??って思って、、

普通だったら、あれ食べたいとか、こういう暮らしをしたいとか、あるんですけど「ただ春になればいいな」って、僕がまだまだ欲があることを見透かされたような、なんともシンプルな願いでした。





山川

かっこいいですよね、ただ春になればいいっていう…

凄く粋でかっこいい人だなと思いますね。

「春」をスプリング・リバーブの「spring」にかけたアイディアを思いつき、その後に長浜谷さんも春を待ち望んでいたことを知って、やはりこの地で季節の移ろいで繋がっているんだな、と思いました。

長浜谷さんは現在66歳なので、
これから秋田に訪れる春が長浜谷さんにとって67回目の春になることにかけまして、タイトルは「The 67th Spring」、67番目の春としました。

常々ダジャレは大事だと思ってるんで僕は。

この「はだしのスクラッチ」という企画も、「スクラッチ」と心の「傷」をかけてますよね。

ダジャレとは言葉の共鳴であり、とても音楽的なものだと思います。



圓井

山川さんの作品についてのメールが最後がダジャレだったので、なんだかとても安心しました。



第8回 はだしのこころ
感覚の対話「はだしのスクラッチ」にて

話し手|山川 冬樹
聞き手|圓井智哉/OVO 安藤郁子/NPO法人アートリンクうちのあかり代表
写真 |徐 津君 / 1. 2. 5. 6
映像 |UB 白田 早坂 田中 / 記録映像
音響 |あそこ 爆音小僧寿し KoNG


作り手山川 冬樹 ∞ 長浜谷 晋

やまかわふゆき    ながはまやすすむ

山川 冬樹                                                                                     現代美術家/ホーメイ歌手。自らの声・身体を媒体に視覚、聴覚、皮膚感覚に訴えかける表現で、音楽/現代美術/舞台芸術の境界を超えて活動。ハンセン病療養所(瀬戸内国際芸術祭/大島青松園)や帰還困難区域(Don’t Follow The Wind展/グランギニョル未来のメンバーとして)長期的な取り組みもある。2015年横浜文化賞文化・芸術奨励賞受賞。秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻、大学院複合芸術研究科准教授。                                                                                                                                                                                                                                                             長浜谷 晋                                                                                     秋田県秋田市で生まれ、“スチールマン”として多数の映画やドラマの撮影を手がけ後、大病の後遺症で”視野障がいと生きるスチールマン”になりました。現在は、「障がい者を撮る障がい者」としてフリーで活動していますスチールマン時代の主な作品・ペンタの空(1991年) ・月(2000年) ・赤い橋の下のぬるい水(2001年) ・笑の大学(2005年) ・次郎長三国志(2008年) など

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